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スクールで学んでほしいこと - ジョナサン・フォックスからの言葉

RED THREAD – MATURE HUMAN BEHAVIOR : Jonathan Fox

織りなす綾-「分別ある品行」の成果として ジョナサン・フォックス

(以下は、2003年9月、静岡で開催された第8回ITPN世界大会において、ジョナサンが基調講演したおりのスピーチから一部を書き起こしたものです)

Jonathan Fox スピーチ

 「平和を望むなら、双方が分別ある品行(mature human behavior, 成熟した人間行動)をとることが大事である」。
 あるアフリカ人が和解について書いた本の中の文章です。これを理解しようとするとき、1994年、南アフリカで初めての選挙がおこなわれ、マンデラ氏が大統領になったことが思い出されます。たった1日で、長く続いた悲しみ溢れる差別制度がより民主的な制度へと変わったのです。血みどろの争いが予測されるなか、お互いが分別ある品行を示した結果のことでした。

この文章を読んだとき、私はプレイバックシアターに思いをはせました。

アクターとして、分別ある品行を取れるかどうか、問われるときがあります。

  • 私たちは「完璧である」ことはありえません。ストーリーを演じ終えた瞬間に「もっとうまくできたのに」と気分が沈んだとしても、自分を律して次のストーリーのためにきちんと立つことが必要です。
    自らの「不完全さ」を覚悟して舞台に立つことは、分別ある品行そのものです。
  • さらに、テラーがアクターを選ぶときにも私たちの成熟度が問われます。自分が選ばれることも、選ばれないこともあります。選ばれなくても分別ある品行が要求されます。
  • もっとも頻繁に問われるのはカンパニーライフにおいてです。歳月を重ねるとメンバー間にさまざまな気持ちや感情が現れます。プレイバックカンパニーとして本当の意味で成功するには、おのおのに分別ある品行が要求されます。時には、ずっと分別のある品行をとり続けることに疲れることもありますが。

 しかし、プレイバックシアターは「いつも自己の最高・最大限であれ」と要求します。より大きく、より豊かな人間にと、プレイバックシアターが要求します。プレイバックシアターに出会ったばかりの頃は、「とても楽しい、面白い、幸せ」という気持ちでいっぱいです。でも、1年、2年、5年とたち、「どう?」って聞かれたら、同じ返事ではなくなります。「プレイバックシアターって、とても大変」と答えるでしょう。 プレイバックシアターの創世記には、グループがポツポツとあっただけでした。今は状況が変わり、プレイバック人口も、新しいチャンスや機会も増えてきました。その結果、プレイバック界に重要な問題が浮上しています。今日ここで、そのいくつかを分かち合いましょう。

「技術的に専門家であること」

 スタートしたばかりのオリジナルカンパニーの時代には、パフォーマンスで難しいストーリーが語られても、よくわかっていないまま演じていました。あたかもお勉強会とかサークルのようでした。しかし、時代が進み、社会的に公に演じるとなると、技術的なプロフェッショナリズムが必要とされます。

  • まず、一定レベルの芸術的スキルが重要でしょう。ストーリーの真髄、つまりハート・オブ・ザ・ストーリーをキャッチできるレベルの芸術性をグループとして持っている必要があると思います。
  • 次に、その場に生ずる非常に深い感情や感情の本質をきちんと扱えることが必要です。
  • また、公演を進行しながら観客の状態を読めるという技術も必要です。
  • さらに、会場にどのような人がいるのかを見極める能力が必要です。
Jonathan Fox スピーチ

 どんなグループや集団でも、必ずその中には、虐げられている人、いわゆる弱者がいます。誰がそういう人たちにあたるか、皆さんに見えているでしょうか?どこにでも、無視されてきた人がいます。どの世代のグループにも一風かわった人、自分が一風変わっていると感じる人がいます。あなたは、そういう人が誰か、見極められますか?そして、それに気がついたら、そういう人を「あなたもどうぞ」と招き入れる方法を知っているでしょうか?それをするには、かなりのスキルが必要となります。

 政治や歴史の勉強も必要です。私たち外国人が日本に来て、日本人をテラーに招くとき、日本の歴史や文化の知識が問われます。テラーの国の背景について全く知らなかったとしたら、深い話はでないでしょう。本当の意味でテラーの椅子に招き入れられたとその人は思わないでしょうから。

 このようなことが要求されるとして、あなたのスキルはいかがですか?そして、それらのスキルに磨きをかけるために、どのようなことができますか?ぜひ、これを機に考えてください。これを機に、つねに新しい知識や新しいスキルを身につけるよう自分に働きかけてください。そういった勉強をしてこそ、プレイバックシアターの本当の可能性というものが見えてきます。すでにそのことをわかっていらっしゃる方もこの会場には大勢いらっしゃるでしょう。私たちには「ここまできたらおしまい」という到達点はなく、ずっと継続して勉強し続けなくてはいけないということです。私はプレイバックシアターに携わって、かれこれ28年になります。そして今でもなお、「学ぶべきことが、なんと多いのか」と思います。ここまでお伝えしたのがプレイバックシアター人として技術的に専門家であるということです。

「専門家同士としての関係性」

 もう一つは、プロフェッショナルな関係性を学ぶという領域です。どのように他人と何かを共用したり、一緒に何かをやったりするか、です。例えば、カンパニーとしてできるだけ高いギャラがほしいと思う時もあるでしょう。他のカンパニーと競うことがあるかもしれません。または、マーケティングやビデオにお金をかけるカンパニーがあるかもしれません。そうかと思うと、そのようなあり方に腹を立てる人がいるかもしれません。自分のプレイバックシアターと違うやり方している人を非難してしまうことがあるかもしれません。「あの人たちは…」と思うのは、よくあることです。でも、覚えていてほしいのです。私たちは分別ある品行を持つプレイバック人であるということを。

 プレイバックの初期の時代と今とでは状況がずいぶん異なりました。今は、プレイバックコミュニティーという大きなコミュニティーの中で、お互いに協力したり、創造したりできるような形で、私たちは分別ある品行をとって、異なった意見をもつカンパニーと関わる術を身に付ける必要があります。つまり、大人として、責任ある専門家としての態度やふるまいが要求されます。例えば、誰かを公に人前で批判することには、とても慎重にならなければなりません。なぜなら、その行為がプレイバックシアターそのものの価値を損ねるからです。 また、他のプレイバックのカンパニーの業績は尊重されるべきです。例えば、許可を得ないまま、他のカンパニーの写真やパンフレットの文章を流用することは良くないことです。以前と今では、ずいぶん変わりました。

Jonathan Fox スピーチ

  そして、IPTN(International Playback Theatre Network)を支持していただければと思います。今私が言ったようなことを一生懸命しているのがIPTNです。IPTNがリードをとり、私たちがそれをサポートしている。そうすることによって、プロフェッショナルなレベルでのプレイバック人としてのさまざまな付き合い方がより効率よく運ばれることとなるでしょう。 プレイバックコミュニティーにいろいろな国の人を迎えたいと私たちが思うとすると、大きな課題にぶつかります。というのも、どの国にも独自の歴史があり、経済的な豊かさにもかなりの差があります。過去に行われた多くの不正や悲しい歴史の出来事を私たちはどう乗り越えられるのでしょうか?とてつもない不平等をどう克服できるでしょうか? これらは私たちが現在学びつつあることです。学びながら、さらに学ぶべきことに出会うでしょう。ということは、私たちの一人ひとりに分別ある品行が要求されるということです。

「私たちの織りなす綾」

 私の今日の話のタイトルは、「織りなす綾」です。プレイバックシアターをやっている人はご存知だと思いますが、一つのストーリーともう一つのストーリーが糸を紡ぐ、「つながっている」という言い方をします。そして、カーペットに例えるなら、紡がれた糸で美しいカーペットが織られていきます。しかし、必ず毎回キレイな糸が紡がれるということは限らないことも私たちは知っています。

  • 最初のストーリーのエネルギーはとても高い
  • 次のストーリーはちょっと弱い
  • その次のストーリーはかなりエネルギーが下がる
  • そのうち糸を見失い、「どうしよう」という気持ちになる。
Jonathan Fox スピーチ

 今日は、プレイバックシアター界のこととして、その活動の成長や広がりということで「織りなす綾」を考えてほしいのです。私たち1人ひとりの中に大きな責任があると思われます。プレイバックシアターは急成長を遂げてきました。そして、これからもっと広がるでしょう。この環境で、互いがつながる糸を見失うことがあるかもしれません。どうしたらいいかという答えは、私にもわかりません。けれども、私たちが注意深く追い求めれば、私たちの中にスキルとコミットがあれば、互いが繋がる糸がうまれ、それらの糸の綾が紡がれ、プレイバックシアターの活動全体が美しいカーペットとなることでしょう。

 この場には、かつて私がビジョンを語り合った仲間がいます。そのビジョンというのは、だれの近所にもプレイバックシアターのステージがあり、そこでアクターが待っていて、行きかう人々がテラーになるというものです。プレイバックシアターがそれほど身近なものになるというビジョンです。

 私はプレイバックシアターが大好きです。楽しく、互いを尊重し、公平で、真実にあふれ、つながりをつくる、そんなところが好きです。一人でも多くの人のところにプレイバックシアターを届けるにはどうしたらいいでしょう?プレイバックシアターの専門家としてのスキルレベルを保ち、専門家らしい関係性を維持するにはどうしたらいいでしょう?その答えは、「分別ある品行」です。